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仙台高等裁判所 昭和30年(ナ)5号 判決 1956年4月30日

原告 畑井茂 外二名

被告 青森県選挙管理委員会

補助参加人 三上兼四郎

主文

昭和三〇年四月二三日施行された青森県議会議員当選の効力に関する原告等の異議につき被告が同年七月一日にした決定を取消す。

右選挙の東津軽郡選挙区における三上兼四郎の当選を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、原告等は昭和三〇年四月二三日施行された青森県議会議員選挙において選挙人名簿に登載された選挙人であるが、右選挙において東津軽郡選挙区における当選人は小野清七(六、八三五票)、丸山元三郎(六、三五三票)、三上兼四郎(五、一〇五票)の三名で、第一位次点となつた候補者田中助蔵の得票は五、〇六六票で最下位当選者たる右三上兼四郎との得票差は三九票であつた。ところで右選挙区の投票所における開票状況は投票の調査粗漏のため有効投票の決定に当つて厳正を欠き候補者田中助蔵の得票については同人に対する有効投票が他の候補者の得票中に混入したり或いは無効票とされたりし、反面当選人三上兼四郎の得票中には無効投票及び他の候補者に対する投票が混入する等当選の効力に疑義があつたので、原告等は昭和三〇年四月二八日被告に対し右選挙の当選の効力に関する異議を申立てたところ被告は更めて投票を調査した結果前記選挙区における有効投票総数三六、六二八票、無効投票総数三八七票、各候補者の得票数は小野清七六、八五二票、丸山元三郎六、三五一票、三上兼四郎五、一〇五票、田中助蔵五、〇八七票、東正義四、六九八票、山谷繁雄四、三七二票、船橋裕太郎四、一六三票、当選人は小野清七、丸山元三郎、三上兼四郎の三名と決定し、最下位当選者たる三上兼四郎の得票は次点者たる田中助蔵より一八票多いから原告等の異議申立は理由がないとして同年七月一日これを棄却した。然しながら右決定は以下に述べる理由により違法である。即ち、

第一、当選人三上兼四郎及び次点者田中助蔵の各有効得票中には次のような誤がある。

(1)  候補者山谷繁雄の平内開票所における得票中に田中助蔵に対する有効投票が一票混入していた。「スケゾ」と記載された投票(甲第一号証)がこれである。

(2)  無効投票中に田中助蔵に対する有効投票と認むべきものが九票(甲第二号証の一乃至九)存在する。即ち、「田中金太郎」、(甲第二号証の一)「田中清助」(同号証の二)、「カマ」(同号証の三)、「中村助ぞう」(同号証の四)、「タナカスケスヨ」(同号証の五)、「田中駒太郎」(同号証の六)、「タナカコマタロウ」(同号証の七)、「田中助蔵様へ」(同号証の八)、「田中さんへ」(同号証の九)の各票である。右各票中「カマ」を除くものはいずれも田中助蔵に対する投票、若しくはその姓或いは名を記載したものとして選挙人の田中助蔵に対する投票意思を表示したものと認めらるべきものであり、又「カマ」と記載された票は「」は「田」で「カ」の上に「ナ」を脱落し、「マ」は「ス」の誤字で「田ナカス(ケゾウ)」と読み得るからこれ亦候補者田中助蔵に対する投票と認めうるべきである。

(3)  当選人三上兼四郎の得票中には他の候補者えの投票が六票(甲第三号証の一乃至六)混入している。即ち、「船橋祐太郎」(甲第三号証の一)、「船橋太郎」(同号証の二)、「ふらはし」(同号証の三)、「オノ七」(同号証の四)「小野清七」、(同号証の五)「マルヤマ」、(同号証の六)の各票で、これらが三上候補者に対する投票でないことはその記載自体からして極めて明白である。

(4)  当選人三上兼四郎の得票中に無効投票と認むべきものが三三票(甲第四号証、第五号証の一乃至二八、第六号証の一乃至四)ある。

(イ)  「2 かみ かね しろう」と記載された票(甲第四号証)は特異な書き方で何人に対して投票されたものか不明である。

(ロ)  判読困難な票が二八票(甲第五号証の一乃至二八)存在する。即ち「三山兼四郎」、(甲第五号証の一)「ミアミ」(同号証の二)「みかカわ」(同号証の三)、「三上兼次郎」(同号証の四)「三上四郎」(同号証の五)、「三あみ」(同号証の六)、「上三」(同号証の七)「三上フシ男」(同号証の八)、「カネフロ」(同号証の九)「三止」(同号証の一〇)、「三上兼三郎」(同号証の一一)、「三土兼四郎)、(同号証の一二)「三」(同号証の一三)、「三上」、(同号証の一四)「三上」(同号証の一五)「三上金四郎」、(同号証の一六)、「三上三」(同号証の一七)、「三下(同号証の一八)、「三士」(同号証の一九)、「三止金四郎」(同号証の二〇)、「三浦四郎」(同号証の二一)、「クノカノノ」(同号証の二二)、「ヌヽカ」(同号証の二三)、「三上平」(同号証の二四)、「三上四郎」(同号証の二五)、「ミガミカワマロ」(同号証の二六)、「カミ」(同号証の二七)、「三上三郎」(同号証の二八)がこれである。

(ハ)  他事記載として無効とさるべきものが四票(甲第六号証の一乃至四)である。即ち「上三上カネ四ロ」、(甲第六号証の一)「三上ス」(同号証の二)「ヤミカミ」、(同号証の三)「三上」(同号証の四)の各票である。

以上のとおりで田中助蔵の有効投票は一〇票増加し、三上兼四郎の得票は三九票減少することとなるから被告の決定した前記各得票数は田中助蔵五、〇九七票、三上兼四郎五、〇六六票と修正さるべく、結局田中助蔵の得票が三上兼四郎の得票よりも三一票多くその得票順位は逆転して田中助蔵が当選人と決定さるべきである。

第二、本件選挙において、東津軽郡選挙区に属する青森市第五一投票所及び第五六投票所(旧奥内村)の投票管理者は同投票所閉鎖前に同投票区内の有権者が適法に行つた不在投票二八票の送致を受けたにも拘らずこれに対してなんらの措置を講ずることもなく漫然送付したところ開票管理者は他の一般投票の開票を結了し開票録を作成して開票結果を選挙長に報告し、その後右不在者投票についてはなんら権限のない市の選挙管理委員会並びに同開票所の開票管理者が不受理の決定をしたがかような措置は公職選挙法に反する違法な措置と云わねばならない。

而して右違法な処置を受けた不在者投票はいわゆる潜在有効投票として取扱はるべきことはいう迄もないがその取扱いは被告の主張するような方法に依るべきでなく、「所属不明の無効投票に対する処置と同じくこれらの投票が何人に対して為されたものか不明であるから、総ての候補者についてその者のために投票された可能性があるものとして取扱ふべきであるが、かような投票の可能性は候補者のいずれか一人について生ずるのであつて候補者の総てについて同時に生ずるものではないから、そこで当選した候補者の一人一人について無効投票が投ぜられたものと仮定してその得票数からこれを差引きしかもその残余の得票数が最高位落選者の得票数と同数若しくはそれより少い者は無効投票によつて当選に影響を受けるものと判断し得る」という理論に従つて考えるべきであるところ、本件において田中助蔵と三上兼四郎の各得票を仮に被告の決定したとおりであるとしても三上兼四郎の得票五、一〇五票から本件不在者投票二八票(被告の主張に依れば二七票)を差引けば五、〇七七票(被告の主張に従えば五、〇七八票)となり最高位落選者たる田中助蔵の得票数より一〇票(被告の主張に従えば九票)少くなるので右不在者投票は当選の結果に異動を及ぼすことは明らかである。従つて前記違法処置は本件選挙における当選の効力を左右することとなるのである以上の次第で第一、第二いずれの理由によるも被告のした原決定は違法であるからこれが取消と三上兼四郎の当選無効の宣言を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告補助参加人の主張に対して、参加人が田中助蔵の有効得票中型紙を使用してその氏名を記載したと認められる票が二票(丙第一号証、同第二号証)存在するが右は候補者の氏名を自署しない無効のものであるとの点は否認する。右は何れも自署に係るものである、「三浦兼四郎」なる票(丙第三号証)は三上兼四郎に対する有効投票と為し得ない、「みか」と記載ある票(丙第四号証)は判読困難で無効である、「ミカミヒ」(丙第五号証)は他事記載として無効である、「タナカスケケスヨ」の票(丙第六号証)は他事記載ではない、又「田中蔵」(丙第七号証)、「田中助藤」(同第八号証)、「田村助蔵」(同第九号証)、「スケズ」(同第一〇号証)、「田中しじお」(同第一一号証)、「田中裕蔵」(同第一二号証)、「田中シン三」(同第一三号証)の各票は田中助蔵に対する有効投票なることは明白であると述べた。

被告指定代理人及び補助参加代理人は主文同旨の判決を求め、被告代理人は答弁として、

(1)  本件選挙における三上兼四郎及び田中助蔵の各得票数、原告等の異議申立による右各得票の修正が原告主張のとおりであることは争はない。

(2)  然しながら本訴において原告等の主張する田中助蔵の得票が五、〇九七票で三上兼四郎の得票が五、〇六六票であるとの点は争う。以下に右各候補者の得票数に関する被告の見解を詳細に述べる。

(イ)  平内町開票所における候補者山谷繁雄の得票中に「スケゾ」と記載された一票(甲第一号証)が混入していることについては争はない。

(ロ)  「田中金太郎」と記載された票(甲第二号証の一)は候補者中に「田中」なる姓を有するものが田中助蔵一人のみであるから同人に対する有効投票であると原告等は主張するが候補者「三上兼四郎」の名は「金四郎」とも誤り易く、「金四郎」は更に「金太郎」と誤られこともあり得るから結局右票は「田中」の姓と「三上兼四郎」の名とを混記したものとして無効とすべく、又そうでなくてもそもそも「田中金太郎」とは明かに候補者に非ざるものの氏名を記載したものであるから無効である。

(ハ)  「田中清助」の票(甲第二号証の二)は候補者に非ざるものの氏名を記載したものとして無効とすべく、「田中」の姓のみに着目すれば田中助蔵に対する投票のように見られるが候補者中に「小野清七」なるものあり、同人の名と混記したものとして無効とすべきである。

(ニ)  「カマ」の票(甲第二号証の三)は第一字は「タ」と読めないこともないが、他の二字は判読困難で結局候補者の何人の氏名を記載したか確認できないから無効である。

(ホ)  「中村助ぞう」の票(甲第二号証の四)は候補者に非ざるものの氏名を記載したもので無効である。本件選挙期間中に青森市長及び同市議会議員の告示が為され県議会議員候補者中には「中村」なる姓を有するものはなかつたが、市議会議員候補者中には「中村」なる姓を有するものあり、選挙人はこれを混同したものと認められる。

(ヘ)  「タナカスケスヨ」の票(甲第二号証の五)は氏名の外に有意の棒線を記載してあるから無効である。候補者三上兼四郎の得票中に「ミカミ」(丙第五号証)と記載されたものがあり、被告はこれをも同様の理由により無効としたのである。

(ト)  「田中駒太郎」(甲第二号証の六)及び「タナカコマタロ」(同号証の七)の各票は候補者に非ざる者の氏名を記載したものであることが明らかであるから無効である。

(チ)  「田中助蔵様へ」甲第二号証人の)、「田中さんへ」(同号証の九)との各票は何れも敬称の外他事を記載したものとして無効である。

(リ)  原告等の主張する三上兼四郎の得票中に他の候補者への投票が六票(甲第三号証の一乃至六)混入している事実は争はない。

(ヌ)  「みかみかねしろう」の票(甲第四号証)は第一字目は原告主張の「」ではなく「み」であつて、明かに候補者三上兼四郎の氏名を記載したものと認められるから同人に対する有効投票である。

(ル)  「三山兼四郎」の票(甲第五号証の一)は「三上」を「三山」と誤記したもので三上兼四郎に対する有効投票とすべきである、「ミアミ」の票(同号証の二)も「ミカミ」の誤記として右同人に対する有効投票と認められる。

(ヲ)  「みかみかわ」の票(甲第一五号証の三)は「みかみかねしろう」と記載すべきものを「ね」と「わ」を誤記したものとして三上兼四郎に対する有効投票と認められる。

(ワ)  「三上兼次郎」の票(甲第五号証の四)は「兼四郎」を「兼次郎」と誤記したものであり、「三上四郎」の票(同号証の五)も「」は「兼」の誤認と認められ、何れも三上兼四郎に対する有効投票である。

(カ)  「三あみ」の票(甲第五号証の六)は「三かみ」の誤記、「上三」(同号証の七)は「三上」を逆に記載したもので何れも三上兼四郎に対する有効投票である。

(ヨ)  原告等が「三上フ男」と記載されたと主張する票(甲第五号証の八)は「三上日ロ」と記載されているのであつて字体の一部に欠けている点はあるが「三上カネ四ロ」の記載すべき選挙人の意思であつたことが認められるから同人に対する有効投票と認められる。

(タ)  「カネフロ」の票(甲第五号証の九)は「兼四郎」を仮名で書き現したものと認められるから三上兼四郎に対する有効投票と認められるべきである。

(レ)  「三止」の票(甲第五号証の一〇)は「三上」の、「三上兼三郎」、(同号証の一一)「三土兼四郎」(同号証の一二)は何れも「三上兼四郎」の誤記で各々三上兼四郎に対する有効投票と云い得る。

(ソ)  原告等が「三止」(甲第五号証の一三)、「三上」(同号証の一四)と記載されていると主張する票は各々「三上一」「三上一」と記載されて居りその筆跡等から勘案すれば「三上」の姓の次に名を書くべくして「兼」の字が難しくはつきり字劃が分らないためこれを中止したものと認められ決して有意の他事記載とは認められない。

(ツ)  「三止」(甲第五号証の一五)は「三上」の、「三上金四郎」(同号証の一六)は「三上兼四郎」の何れも誤記と認められ、

(ネ)  「三上ミ」(甲第五号証の一七)は前記(ソ)に述べたと同趣旨の他事記載にあらざるものと認められ、

(ナ)  「三下」(甲第五号証の一八)、「三士」(同号証の一九)は何れも「三上「の誤記、「三止金四郎」(同号証の二〇)、「三浦兼四郎」(同号証の二一)は何れも三上兼四郎の誤記と認められる。

(ラ)  「カカ」と記載された票(甲第五号証の二二)は三上兼四郎の氏名を片仮名で書いたもので「」は「ミ」と書くべきを逆にしたものであるが、三上兼四郎と記載すべき選挙人の意思が推察できるから同人に対する有効投票とすべきものである。

(ム)  「ミカ」と記載された票(甲第五号証の二三)は「ミカミ」と記載すべきを最後の字を脱落したものであつてこれも三上兼四郎に対する有効投票と認められる。

(ウ)  「三上兼平」の票(甲第五号証の二四)は三上兼四郎の名を思い違いしたものと認められるので同人に投票する意思が推定されるから有効である。

(ヰ)  「三上四郎」の票(甲第五号証の二五)は「兼」一字を脱落したに過ぎないから三上兼四郎に対する有効投票として扱うべきである。

(ノ)  「ミガミカマロ」と記載された票(甲第五号証の二六)は字体が拙劣ではあるが「ミカミカネスロ」と判読できるからこれ亦三上兼四郎に対する有効投票と為し得る。

(ヲ) 「カミ」の票(甲第五号証の二七)は「ミカミ」の第一字を脱落したもので三上兼四郎に対する有効投票とすべきものである。

(ク)  「三上兼三郎」の票(甲第五号証の二八)は「四」を「三」と誤記したに過ぎない。

(ヤ)  「上ミ上カネ四ロ」と記載された票(甲第六号証の一)の第一字目の「上」は、「ミ上」と書くべきを誤つて先に「上」の字を書いたので更にその下に書き直したものと認められ、第一字目の「上」は有意の他事記載とは認められないからこれを無効投票とすべきではない。

(マ)  「三上ス」の票(甲第六号証の二)の最後の文字「ス」は「三上兼四郎」を「三上スロ」と書かうとして名前が判然としないため止めたもので有意の他事記載とは認められないから有効である。

(ケ)  「カカ」と記載された票(甲第六号証の三)は拙劣ではあるが「ミカミ」の姓の傍に兼四郎の名を書かうとして「カ」のみで止めたものと認められ「カ」は有意の他事記載ではない。

(フ)  「三上」の票(甲第六号証の四)は第二字目は「上」と書くべきを誤つて「山」と一旦書いたのでこれを消したものと認められこれ亦有意の他事記載ではない。

以上(ヌ)乃至(フ)の各投票は何れも候補者三上兼四郎に対する有効投票と認むべきものである。

(3)  なお本訴提起後被告の調査により無効投票中に「三浦兼四郎」「みかみ」と記載された票各一票宛(丙第三、四号証)存在することを発見したがこれらは何れも三上兼四郎に対する有効投票とされるべきものである。

(4)  以上の次第で被告の先に決定した候補者三上兼四郎と田中助蔵の各得票数を修正すると、三上兼四郎は前記(2)の(リ)において六票減り、(3)において二票増加し差引四票の減少となるからその総得票数は、五、一〇一票であり、田中助蔵は前記(2)の(イ)において一票増加するのでその総得票数は五、〇八八票であり、三上が田中よりも一三票多いこととなるからその当選順位にはなんらの変更をも来さない。

(5)  原告等の主張する不在者投票の不受理の処置についてはなんらの違法もない。即ち、開票管理者が右不在者投票を不受理と決定した事実は認めるが、右は次の事情に因るものである。不在者投票は第五一投票所から一票、第五六投票所から二七票計二八票送致されたのであるが調査の結果前者の一票はその区域内の選挙人名簿に登載されていない者のした投票であり、後者の二七票は投票管理者がその投票の受理か否かの決定をせず、しかもこれを投票箱に入れず、又封筒に入れる等の処置も為さず投票箱と別個にその尽送付して来たという始未で正当な管理が行はれていないので各立会人の意見を聴いてこれを不受理と決したのである。右開票管理者のした各不在者投票不受理の処置については違法はないのであるがうち二七票についてはその理由となつたところは第五六投票区の投票管理者の管理については過失に基因するのでこれらはいわゆる潜在的有効投票と為すべきものである。ところが潜在的有効投票の取扱については現行の公職選挙法には直接にこれを規定した明文がないが同法第二百九条の二に定めるいわゆる潜在的無効投票に関する計算方法に準じそれら投票を各候補者の得票数に応じて按分して得た数を開票区ごとに各候補者の得票数に加えて計算すべきものと解するのが相当であると思料する。そこで青森市開票区における各候補者の得票数にこれを按分して加算すれば次の如くになる。

候補者氏名

得票数

二七票を按分

東正義

二、五六三

八・一六九

二、五七一・一六九

三上兼四郎

二、〇〇五

六・三九〇

二、〇一一・三九〇

小野清七

一、四九九

四・七七七

一、五〇三・七七七

船橋祐太郎

九四一

二・九九九

九四三・九九九

田中助蔵

七一一

二・二六六

七一三・二六六

丸山元三郎

五三六

一・七〇九

五三七・七〇九

山谷繁雄

二一六

〇・六八八

二一六・六八八

(註 三上兼四郎の得票には青森市の無効票中から被告が有効と主張するもの一票を加えた)

而して三上兼四郎と田中助蔵の得票は前記の如く五、一〇一票と五、〇八八票であるからこれに右按分票を加算するときは三上兼四郎の得票は五、一〇七・三九〇、田中助蔵の得票は五、〇九〇・二六六となるので三上兼四郎の得票は田中助蔵よりも一七・一二四票多いこととなるからその当選にはなんらの影響を及ぼさないこととなる。と述べた被告補助参加代理人は原告の請求原因事実に対する答弁として、

(1)  原告が本訴において当選無効の原因として述べている不在投票の違法は原告が本訴において初めて述べるところで異議、訴願の段階において述べなかつたところであるからこれを主張することは許されない。

(2)  仮に原告の主張する不在投票の違法が本件当選効力訴訟の請求原因事実として主張することを許されるとしても、右不在投票の違法性は原告の主張するようなものではない。即ち、本件不在投票二八票中第五一投票区の不在投票一票は選挙人名簿に登録されていない者の不在投票で当然無効とすべきものであるからこれに対する不受理の決定はもとよりなんらの違法もない。又第五六投票区の不在投票は同投票区において投票箱又は封筒にも入れないでそのまま開票管理者に投票箱と一緒に送致されたものであるからこの点において違法があつたことは認めざるを得ないがそれだからと云つて右不在投票二七票の管理の違法の故に本件投票全部を無効とすることは公職選挙法第六八条の二、第二〇九条の二の規定が新設された法意に照し適当ではない。右第二〇九条は潜在無効投票についてはこれを全部の投票から一応無効投票として差引くことをしないで各候補者の得票数に応じて得た数を夫々差引くものとした。本件不在投票は帰属不明ではあるが潜在有効投票である(尤も候補者の何人に投票したものであるか不明のいわゆる法第六八条に反する無効投票があるかも知れない)。従つてむしろ右二七票は田中助蔵候補にも三上兼四郎候補にも加算せらるべきであつて田中助蔵候補にのみ右二七票を加算して三上兼四郎の得票と比較することは不合理である。

原告の主張は不在投票の手続の違法による当該不在投票を選挙の一部無効と同様の方式(公職選挙法第二〇五条)によるべきであるとするもので到底賛同できない。即ち、法第六八条の二及び第二〇九条の二の法意に準じ右二七票は(仮に全部が有効投票であるとしても)宜しく各候補者が青森市に於て得た票数に応じ按分して加算すべきである。而して右按分数は三上兼四郎六・三九〇、田中助蔵二・二六七となるから(計算の基礎は前記被告の答弁(5)の表と同一)既に三上の得票が田中よりも一五票多い(この点については後記)のであるから三上は田中よりも一九・一二三票多いこととなつて当選の効力に影響はない。

(3)  原告の主張する(1)乃至(4)の投票の効力に関しての答弁は前記被告の答弁(2)と同様である。(但し「ヌヽヽカ」の票(甲第五号証の二三)が無効であることは認める。)

(4)  無効投票中に三上兼四郎に対する有効投票とされるべきもの二票あることは被告の前記答弁(3)と同様である。

(5)  田中助蔵候補の有効投票中に「スナゾ」「スケ」と記載されたものが各一票宛(丙第一、二号証)存在するが、右は何れも型紙を使用して型をたどつて書いたものと認めるのが相当であつて公職選挙法第六八条第一項第六号の候補者の氏名を自署しないものに相当するから無効投票と云はなければならない。

(6)  以上の次第であるから、被告青森県選挙管理委員会の決定した得票に前記主張による修正を施すときは、田中助蔵候補は有効票一票(前記原告主張(1)の票)無効票二票(前記(5)の票)で差引き一票減少して五、〇八六票となり、三上兼四郎候補は同人の得票でない原告主張(3)の六票が減少し、前記(4)の二票が増加するから差引き四票の減少で五、一〇一票で三上が田中より一五票多くこれに前記(2)の按分票を加えるとすればなお一九・一二三票多いこととなるから何れにしても三上兼四郎の当選に影響するところはなく原告の主張は理由がないと述べた。(証拠省略)

理由

原告等は昭和三〇年四月二三日施行された青森県議会議員選挙において選挙人名簿に登載された選挙人であること、原告等が同年四月二八日被告に対し右選挙の当選の効力に関する異議を申立てたところ被告は更めて投票を調査した結果右選挙の東津軽郡選挙区における有効投票総数三六、六二八票、無効投票総数三八七票、各候補者の得票数は小野清七六、八五二票、丸山元三郎六、三五一票、三上兼四郎五、一〇五票、田中助蔵五、〇八七票、東正義四、六九八票、山谷繁雄四、三七二票、船橋祐太郎四、一六三票、当選人は小野清七、丸山元三郎、三上兼四郎の三名と決定し、最下位当選者たる三上兼四郎の得票は次点者たる田中助蔵より一八票多いから原告等の異議申立は理由がないとしてこれを棄却したこと、以上の事実は被告の明らかに争はないところであるからこれを自白したものと看做すべきである。

よつて原告等の右決定を違法なりとする主張について判断する。先づ第二の不在者投票手続における違法ありとの点について考えるに、被告補助参加人は右の点については原告が本件訴訟に先行する被告に対する異議の段階において主張するところがなかつたから訴願前置主義の建前から本件訴訟においてこれが主張は許さるべきでないと云うが、得票数を争う当選訴訟においては、異議、訴願の手続において主張しなかつた投票の無効原因を新に当選無効原因として追加主張することを妨げないのであるから原告の右主張は許さるべきものである。ところで原告主張事実中第五一投票区に送付された不在者投票一票のあつたことは争のない事実であるところ、この投票区における投票管理者の右一票に対する措置に原告等の主張するような違法な廉の存した事実はこれを認めるに足る何等の証拠なく、却つて成立に争のない乙第二号証によれば右投票管理者は同投票区における選挙人名簿に登載されていない者によつて為された投票であることを認めこれを無効なものであるとなし不受理と決定して制規の手続で開票管理者に送致したものであることが明らかであるからこの間選挙事務執行上何等の違法はなく従つて右一票の効力の判定には何等の過誤もないものというべきである。次に原告等主張のとおり第五六投票区において二七票の不在者投票の送付を受けたこと、同区の投票管理者がこれにつき受理、不受理の決定をしなかつたのみならず開票管理者に対する送致の手続にも過誤のあつたことは被告の認めて争はないところであるし前掲証拠によれば結局右二七票は被告の主張するとおり処理された事実を看取することが出来るから右二七票は不法にその効力を失わしめられたものといわなければならない。結局右二七票はいわゆる潜在有効投票といい得るものであるからこれが本件当選の効力に及ぼす影響の有無について考えるに、元来潜在有効投票の取扱については公職選挙法上何等この点に関する規定を見出し得ないのであるが、右投票の総数が最下位当選者の得票数と最高位落選候補者の得票数との差に等しいか又はこれより多い場合は右潜在有効投票の存在が該選挙における最下位当選者の当選の効力に影響を及ぼすものと解するのを相当とする。

そこで今本件の得票数に即してこれをみるに、本件選挙における最下位当選者たる三上兼四郎の得票が五、一〇五票、最高位落選者なる田中助蔵の得票が五、〇八七票と被告の前記異議決定によつて確定されたものであることは当事者間に争なく、本訴においても被告はその差を一七、一二票と主張し補助参加人は一九、一二三票であると主張するに止まるのであるから本件の右潜在有効投票二七票を右田中助蔵の得票に加えるときは三上兼四郎の得票数よりも多くなることはいずれにしても計数上明らかなところである。

従つて本件選挙における右不在者投票二七票は正に当選の効力に影響を及ぼすものというべく、爾余の投票の効力に関する判断を為す迄もなく原告の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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